巻線のホットスポット温度は局所的な値であり、上部油温や巻線平均温度とは異なります。熱モデルは負荷、油温、周囲温度、熱パラメータから推定します。一方、光ファイバプローブは巻線内に設置した特定位置の温度を測定します。
- モデルは入力値から熱状態を計算し、プローブは設置点の温度を測定します。
- 1本のプローブが測定するのは1つの定義された点です。複数点の測定には複数のプローブが必要です。
- 測定値の意味は設置位置で決まります。プローブが未知の最高温度点を自動検出することはありません。
- 測定値はモデルの検証や調整に使え、モデルはプローブのない領域の熱状態を推定します。
ホットスポット温度とは
ホットスポットは巻線内で最も高温になる領域で、紙絶縁の劣化に影響します。上部油温は所定位置の油温を示し、巻線平均温度は局所的なピークを平滑化します。計算値の妥当性は、使用したパラメータと運転条件が対象変圧器をどれだけ表しているかに左右されます。
| 量 | 説明 | 取得方法 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 上部油温 | 定めた上部位置の油温 | 油中のセンサーまたは指示計 | 導体温度ではなく、ホットスポットとの差は変化します。 |
| 平均巻線温度 | 導体の平均温度 | 試験時の抵抗法 | 局所ピークを平滑化します。 |
| 計算ホットスポット | モデル化された巻線の熱的最高値 | 負荷、油温、周囲温度、パラメータによるモデル | 入力値が対象変圧器を表す場合に有効です。 |
| プローブ測定値 | 設置点の温度 | 巻線内の蛍光式プローブ | 適切な位置に設置された場合に最高温度を表します。 |
熱モデルによる推定
計算では周囲温度、上部油温上昇、巻線ホットスポット温度勾配を組み合わせます。時定数、指数、定格温度上昇には試験値または規格値を使い、冷却段階の変化に応じてパラメータを切り替えます。必要なデータがあれば、プローブを内蔵しない変圧器にも連続的な推定値を提供できます。ただし、負荷や冷却状態が急変し、前提から外れると残差が生じます。
埋込型光ファイバプローブが測るもの
蛍光式プローブは先端位置の温度を測ります。励起光で蛍光体を発光させ、その減衰時間を計測器が温度に変換します。測定経路は非導電性です。INNOの方式は点測定であり、ファイバ全長に沿った分布測定ではありません。測定位置は巻線の設計・製造時に決めます。
直接測定とモデル推定の比較
| 項目 | 熱モデル | 埋込型光ファイバプローブ |
|---|---|---|
| 原理 | 負荷、油温、周囲温度、パラメータから計算 | 物理的な設置点を光学的に測定 |
| 出力 | 推定した熱状態 | 計測点の実測温度 |
| 測定範囲 | モデルが表す変圧器の挙動 | プローブ1本につき1点 |
| 主な制約 | 前提と入力データに依存 | 設置位置とプローブ数に依存 |
プローブ位置が重要な理由
巻線形状、冷却ダクト、油流が高温領域を左右します。熱設計で特定した領域にプローブを配置してください。比較時には、プローブが特定導体の温度を示す一方、モデルは等価ホットスポットを表す場合がある点も考慮します。
現場データ:モデルと光ファイバ基準値
2026年にDiscover Artificial Intelligenceで公表された研究では、100 MVA・220 kVのONAF昇圧変圧器を夏季に評価しました。評価期間5日間で、基準の動的モデルのMAEは8.35 °C、高調波損失を考慮した物理モデルは4.18 °C、残差補正を加えたハイブリッドモデルは1.87 °Cでした(RMSE 2.34 °C、R² 0.972)。基準値には利用可能な光ファイバチャンネルのうち有効な最高値を使用しています。結果は対象機器と試験条件に限られ、IECモデル全般の性能を示すものではありません。
| 方法 | MAE (°C) | RMSE (°C) | R² |
|---|---|---|---|
| IEC動的熱モデル(論文のベースライン) | 8.35 | 9.87 | – |
| スペクトルを考慮した物理モデル | 4.18 | – | – |
| 物理・データハイブリッドモデル | 1.87 | 2.34 | 0.972 |
数値が示すこと
評価期間中の光ファイバ基準値は平均76.69 °C、IECベースラインは85.16 °Cで、8.47 °C高い値でした。警報しきい値98 °Cでは、ハイブリッドモデルが光ファイバ記録13件のうち12件の超過を検出しました [2]。
数値から結論できないこと
対象は1台の変圧器と夏季の評価期間で、太陽光発電による負荷変動と大きな電流ひずみがありました。プローブ位置と校正情報は公開されておらず、設置位置の影響は切り分けられません。ハイブリッドモデルも光ファイバ測定値でパラメータを更新しています。
測定とモデルを併用する
熱設計で測定領域を決め、温度上昇試験で初期比較を行い、実運転時には負荷条件下の測定点とモデル出力を比較します。差が続く場合は、パラメータ、冷却状態、高調波、プローブ位置を見直します。内蔵プローブがない場合はモデルが推定手段となり、プローブがある場合は実測値が計測点を示し、モデルがその間を補います。
巻線直接測定向けINNO構成
公表仕様では、油入変圧器用プローブの測定範囲は−40~+260 °C、分解能0.1 °C、精度±1 °Cです。最終仕様は対応するプローブと計測器の構成によります。IF-C多チャンネル計測器は1~64チャンネル、1秒未満の取得周期、RS485/Modbus、オプションのアナログ出力、2点の警報リレーに対応します。油入変圧器監視システムは1~18チャンネルで構成可能です。選定した製品の仕様書をご確認ください。
検討時には変圧器の形式・容量、巻線構成、想定ホットスポット、測定点数、ファイバ経路と長さ、Modbus・アナログ・リレーの要件をご用意ください。変圧器温度監視のページもご覧ください。
参考規格・文献
- IEC 60076-7:2018, Loading guide for mineral-oil-immersed power transformers.
- Cao, S. (2026). Online power-transformer hot-spot estimation via spectrum-aware physics-data hybrid learning. Discover Artificial Intelligence, 6, 1673. DOI: 10.1007/s44163-026-02632-y.
- Abdali et al. (2023), Novel hotspot temperature prediction of oil-immersed distribution transformers: An experimental case study. IEEE Transactions on Industrial Electronics, 70(7), 7310–7322. DOI: 10.1109/TIE.2022.3206690.
- Abdali, A., Abedi, A., Masoumkhani, H., Mazlumi, K., Rabiee, A., & Guerrero, J. M. (2023). Magnetic-thermal analysis of distribution transformer: Validation via optical fiber sensors and thermography. International Journal of Electrical Power & Energy Systems, 153, 109346. DOI: 10.1016/j.ijepes.2023.109346.
- González-Cagigal, M. A., Rosendo-Macías, J. A., & Gómez-Expósito, A. (2023). Parameter estimation for hot-spot thermal model of power transformers using unscented Kalman filters. Journal of Modern Power Systems and Clean Energy, 11(2), 634–642. DOI: 10.35833/MPCE.2022.000439.
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